【1万字インタビュー】コロナ禍の遠野でビールの里プロジェクトはどう動いた?

コロナ禍の遠野でビールの里プロジェクトはどう動いた?




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日本随一のホップ生産地である岩手県遠野市では、「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に、ホップとビールを中心としたまちづくりを行っています。遠野市全体として「ビールの里プロジェクト」を推進しており、毎年8月には遠野ホップ収穫祭を開催するなど、順調にその取り組みが進められていました。

しかし、新型コロナウイルス感染症拡大で状況は一変。緊急事態宣言は解除されたものの、遠野に限らず日本中がいまだ苦境に陥っています。2020年の遠野ホップ収穫祭も中止になり、ビールの里プロジェクトに関わる人たちも、軌道修正を余儀なくされました。

それにも関わらず、ビールの里プロジェクト関連では、クラウドファンディングで多くの支援を集めたり、通販を開始したビールが一瞬で売り切れたり、苦境の中にあってもポジティブな成果が見受けられます。

そこで、ビールの里プロジェクトはどのようにコロナ禍に対応したのか、今後はどのように動こうと考えているのか、ビールの里プロジェクトのプロデュースを担当している株式会社BrewGoodの田村淳一さんと上西尚宏さんに話を聞きました。

田村淳一田村淳一
和歌山県田辺市出身。リクルートで新規事業の立ち上げや法人営業に携わる。2016年に退職し、遠野市に移住。2017年に株式会社遠野醸造を設立。2018年10月に株式会社BrewGoodを立ち上げ、ホップとビールによるまちづくりの推進、新たな産業創出を行っている。
上西尚宏上西尚宏
北海道旭川市出身。美大卒業後、フジテレビでテレビ番組のCGデザインを担当。その後、デザイン事務所、大手IT企業を経て2006年に独立し、東京・渋谷の宮益坂に美容室、リラクゼーションサロンを開業。2018年、遠野市に移住。地域おこし協力隊として株式会社BrewGoodにてビールの里プロジェクトに携わる。

3月中旬の初期対応は主に関係者の情報収集

――新型コロナウイルス感染症拡大対策で、今までにない対応が求められましたよね。ビールの里プロジェクトを進める上でも、予定していたのにできなかったことがいろいろとあったと思います。遠野では何が起こっていたのか教えてください。

田村淳一(以下、田村):対応については3月中から話し合っていましたよ。上閉伊酒造の春のイベントもすでに中止が決まっていましたし、遠野醸造はどうする? とか。そのときから、今後も影響はいろいろありそうだなと話をしていました。

――3月の早い段階で、すでに影響が出ていたんですね。

田村:そう、遠野醸造、上閉伊酒造、BEER EXPERIENCE(BE社)も、話を聞いてみると、みんな「やばい、やばい」と言っていて。これは何か対策をうたないといけないなと思って、BrewGoodが動き出したんですよ。まずは、情報の整理を始めました。遠野醸造、上閉伊酒造、BE社の状況をいったん取りまとめて市役所に共有したり、その他の情報の整理を始めたり。

遠野醸造
地域おこし協力隊として遠野に移住した太田睦と袴田大輔、そして田村淳一の3人で 2017年11月に設立。2018年5月には醸造所併設のパブ、遠野醸造TAPROOMをオープン。遠野の内外をつなぐコミュニティブルワリーとして、ビール造り、店舗運営を行っている。
上閉伊酒造
1789年から酒造りを営む、遠野市唯一の酒蔵。日本酒だけでなく遠野麦酒ZUMONA(ズモナビール)も醸造しており、インターナショナルビアカップで金賞を受賞するなど、受賞歴も多数。ビールには遠野産ホップを通年で使用している。
BEER EXPERIENCE
遠野に移住して農業に従事した吉田敦史が2018年に創業した農業法人。日本のビール文化をもっとおもしろくすることを目的とし、ビールのおつまみ野菜であるパドロンやホップの栽培を行っている。

――それが3月中旬くらいですか。

田村:3月19日にTKプロジェクトのTK会議があって、みんなで集まれたんですよ。まだ大人数で集まるのも問題ない時期だったので。

上西尚宏(以下、上西):まだそのときは大丈夫だったね。

TKプロジェクト
2006年から始まった遠野市とキリンビールによるプロジェクト。日本産ホップの持続的な生産体制の確立と地域活性化を目指し、ホップを活用したまちづくりを行っている。関係者によるTK会議は毎月開催。

田村:TK会議って、去年からみんなで困っていることを出して話し合おうという形になっていたんですけど、そこで各所の情報を吸い上げられたんです。そこでは、今は大変だけど、5月に予定している遠野醸造の周年イベントのタイミングでお客さまをたくさん呼ぼうっていうような話もあって。みんなもいろいろと対策も考えてくれていました。

上西:その頃は自粛や規制もない時期でしたからね。

田村:結局、人を集めて何かやることもできなくなったわけですけど。でも、みんなで考えてすり合わせはしていたんですよ。遠野ホップ収穫祭をどうするかという議論も具体的にしていました。

遠野ホップ収穫祭
ホップの収穫を祝うお祭りとして、2015年から毎年8月に開催されている。毎年来場者数が増えており、2019年には1万2,000人もの来場者が訪れた。

――具体的にというのは、開催するかしないかという話ですか?

田村:開催するかしないかのジャッジタイミングをいつにするか、といったことですね。どうすれば実施できるのかとか。その頃に助成金の申請とかもしていましたし、とにかく打てる手は打っておこうと。なので、ズモナビールのクラウドファンディングをやるくらいの時期までが、とんでもなく忙しかったですね。忙しすぎてあまり覚えてない(笑)。

ピンチをチャンスに変えたズモナビールのクラウドファンディング

田村淳一

――そういえば、上閉伊酒造が造っているズモナビールは、在庫が残ってしまったこともあって、クラウドファンディングをやっていましたね。

田村:そのクラウドファンディングをやろうというのも、いろいろと情報収集しているときに、上閉伊酒造でビールの在庫が残って困っているという話を、上閉伊酒造の一角に事務所があるBE社のメンバーから聞いたのがきっかけなんです。

上西:上閉伊酒造醸造士の坪井さんからじゃなくて、周りの人たちからこんな状況になってますよ、と聞いたのが最初ですね。

田村:そう。ちょうどその頃、僕がビールの里プロジェクトの中長期戦略を市にプレゼンしたばかりだったんですよね。

上西:それが当初の予定と変わる動きになりそうだな、という感じがすごくあったんですよ、そのときは。

田村:そこで、僕らが動きまわって情報収集して、具体的なプランを練って全体計画を書き直し始めました。それが3月中旬。全体の計画を書き直しつつも、目の前に起きている課題を解決しないといけないということで、クラウドファンディングを実施しようとしていた上閉伊酒造に対して、BrewGoodが手伝いますよ、と動き始めたんです。

――なるほど。上閉伊酒造のビールの在庫が余ってしまっていたのをどうにかしないといけなかったけど、それをビールの里プロジェクトの全体計画の一環にしたわけですね。

田村:そうですね。なので、上閉伊酒造のビールだけじゃなくて、BE社のパドロンもセットにしたり、返礼品に遠野のビジョンブックも加えてブランディングの機会にしようとしたんです。実際、ピンチな状況ではあるんですけど、お客さまに商品を届けて、コミュニケーションを強化できるチャンスがやってきたと考えて。

上西:ビジョンブックはすぐ配る予定ではなかったですけど、そういったこともあって、すぐ印刷してましたね。4月頭に納品されて。

ズモナビールのクラウドファンディング

ズモナビールのクラウドファンディングリターン。ズモナビール2種とBE社のパドロン、ビジョンブックがセットになったもの

田村:それと、クラウドファンディングもしながら、消費喚起キャンペーンをしなければいけないとも思ったんですよ。そのときに#いつかホップ畑で会いましょうプロジェクトの話も出てきたんです。

上西:なんでそのプロジェクトの話が出てきたのかと言うと、今年は遠野ホップ収穫祭を開催できないんじゃないかという感じだったんですよ。いろいろ情報を集めたときに、おそらく開催できないだろうという予測がたった。そうなったときのために、何か手を打とうということで、遠野のことを応援してくれている人をつなぎとめる必要があったんです。

遠野ホップ収穫祭は開催しないので行けない、でもいつ収束するかわからないので先が見えない。行きたい思いはずっと残る。じゃあ、未来の約束をして、今を乗り越えていこうと。

――今どうしたらいいかわからないし、先が見えないという状況でしたね。今もそうですけど。

田村:そのときにみんなで話していたのは、単純に困っているからビールやパドロンを買って支援してください、ということではないということ。買ってほしいんだけど、僕らができることって何なのか、ということも考えていました。そこで、ただモノを買ってもらうだけなじゃくて、未来の約束があればみんな前向きになれるんじゃないかと。そういった前向きなメッセージを遠野から発信していこうよ、と。

――そこは最初からビールの里プロジェクトメンバーで意識共有はできていたんですか?

田村:他の人たちも同じようなことは考えていました。岩手って感染者数がゼロなんですよ(※取材当時)。日本中が困っている中で、助けてとは言いにくかったというのもあります。そこで、僕ららしさを出せる何かができないかなと。

ビジョンブックだけではメッセージが足りないということで議論していたんですけど、上西さんからポストカードはどうかという話が出てきて。そこに #いつかホップ畑で会いましょう ってメッセージを入れて、クラウドファンディングのリターンに差し込みました。

上西:おそらく、クラウドファンディング、ビジョンブック、ポストカードを単品で何かしようとしてもうまくはいかなかったと思います。それらを一緒に出せる機会でもあったし、思いをもっと強く伝えられると思ったんです。

いつかホップ畑で会いましょう

#いつかホップ畑で会いましょう プロジェクトのポストカード

田村:本当に上閉伊酒造やBE社、遠野醸造は大変な状況だったんですよ。でも、僕たちは俯瞰してやっていかないといけないと思っていて、前向きに挑戦したり成果を出したりというモードに早く変えたいと思っていたんです。どこかでギアチェンジして、前に進むモードにしようと。

結果的に、ギアチェンジするきっかけがクラウドファンディングになって、みんなでチャレンジするという方向に進めるようになったのではないかと思います。

上西:去年の遠野ホップ収穫祭のときにクラウドファンディングをやったんですよ。会場のテントを大きくする予算がなくて、協力を募ったんです。そして、その結果として何が起こったかというと、クラウドファンディングをきっかけに遠野ホップ収穫祭を知ったという人が増えた。PRツールとしてクラウドファンディングが機能していたんですね。

そういう意味では、今回のクラウドファンディングもピンチではあるけどいい機会だと。未来の約束をして、遠野を忘れないでほしいという思いも込めて、ただモノを買ってもらうだけでなく、そこに価値や希望を乗せられるような機会だったと思います。

上西尚宏

田村:そうですね。それと、長く応援してほしいということもあって、上閉伊酒造でも通販と同じような価格帯を設定していました。中には通販よりも安いセットもありましたね。

――確かに、安いなとは思っていました。

田村:ビールやパドロンなどのリターンだけでもお得だったと思ってもらいながら、ビジョンブックとポストカードもつけることで、こちらのことを理解してもらう機会にしたんです。次に仕掛けるときにも応援してもらいたいと考えて。そのあたりのコミュニケーションはすごく議論して考えています。

普段からの連携がコロナ禍での力になった

田村淳一・上西尚宏

――このクラウドファンディングで、ズモナビール、上閉伊酒造を知った人は多かったですね。

田村:そうですね。ズモナビールを多くの人に知ってもらえるいい機会だったと思います。通販を強化しないといけない状況だったことも含め、認知度が上がったのは嬉しかったです。

――クラウドファンディングの支援者数は最終的に553人になりました。

田村:クラウドファンディングをやってみると、応援のコメントがいっぱい届いたんですよ。初めて知ってくれた人もいるし、前から知っていた人もいるし、そのコメントを見て、ズモナビールのスタッフや他のビールの里プロジェクトのメンバーもテンションが上がってくるんですよね。応援してくれる人がいるんだと。上閉伊酒造社長の新里さんも、クラウドファンディングの支援者に手紙も書いてくれていたし、いい方向に転換していけました。

当初予定していた以上に支援をしていただけたので、ビールのボトルも足りなくなったんですよ。彼らの負荷を減らすために、僕らも時間があればビジョンブックを袋に詰める手伝いをしてましたね。

上西:今までもわりと連携していたつもりだったけど、我々がより積極的に連携していくことで、それぞれの強みをさらに発揮できたように思います。みんなで乗り切ることができたというか。

――それも、これまでの連携があったからということもあるんじゃないですか?

上西:そういう土台があったからというのはありますね。

田村:みんなで集まって話をしたり、連携できるメーリングリストがあったり、土台はありました。ビールの里を進めるために、いろいろ手を打ってきましたけど、それがコロナ禍に間に合ったという感じですね。

――その意味で、BrewGoodの存在がやっぱり必要だったんだと思えます。

田村:BrewGoodを立ち上げてよかったなと思いますね。僕が遠野醸造の経営だけに集中していて、BrewGoodを立ち上げていなかったら上西さんもいないわけですし、それを考えると怖いなと。

BE社の人たちもコロナ禍の対応に追われたり、パドロン収穫したり、バタバタしていてコミュニケーションが普段よりも取りにくかった。遠野醸造も新型コロナウイルス感染症拡大対策でお店を閉めて、テイクアウトやボトルビールをどうするかということに集中していて。それを全体でまとめられるBrewGoodがあったことに意味がありました。

送る側も受ける側も思いを共有できる未来の約束

田村淳一

――そのズモナビールのクラウドファンディングは、4月24日に開始、5月11日に終了していますね。4月頭くらいからその準備も含め、具体的な対策を進めていたという感じでしょうか。

田村:4月頭の時点で、ビールの里プロジェクト関連事業者の状況はまとまっていました。どの事業者も売上がダウンしていたし、今後の見通しもわからない。それを踏まえて4月7日に #いつかホップ畑で会いましょう プロジェクトをやろうと関係者にメールしてますね。

上西:今思えば早かったね。そのときに考えたのは、みんな落ち込んでいるような空気感の中では、未来の約束がすごく大事だということ。そんな話をSNSで見てなるほどと思ったんです。

田村:それが僕たちビールの里としての、前向きなメッセージになるんじゃないかと思ったし、こういうときだからこそ、逆に取り組みを広めるチャンスになると考えていました。

上西:大変な時期って、どうしても視野が狭くなりがちじゃないですか。まずは足元を固めないといけないので、外に対しての発信は後回しになるんですよね。実際にみんな大変だったし、発信しにくい状況でもありましたから。

上西尚宏

――そうですよね。商品があるのに売れない、いつ収束するかわからない、という状況だと、目先のことをどうにかしないといけないでしょうし。

田村:この頃に、ビールの里プロジェクト関係者、具体的には遠野ふるさと商社、上閉伊酒造の新里さん、BE社の浅井さんたちで集まって、BrewGoodはこういうことをやるから大丈夫ですよという話をしましたね。

やはり、商品を作って売る会社は「ヤバい!」となるけど、遠野ではBrewGoodが俯瞰して見ることができたのは大きいと思います。BrewGoodは商品を売る会社ではないので、違う立場から見ることができた。

――それくらいの頃から、だんだん大人数で集まるようなことはできなくなってきましたよね。

田村:そうですね。でも、TKプロジェクトのメーリングリストのようなものがあって、そこでもビールの里ではこういうことをやります、という話をしました。そのときに感じたのは、未来の約束に対して、遠野の人たちのほうがその言葉に反応していたということ。苦しいけど、その約束をきっかけにお客さまとコミュニケーションをとって頑張っていけそう、っていう感じで。

――当然のことかもしれないですけど、ダメージを受けている事業者とそうでない人たちでは立場が違うので、危機感が全然違っていた感じはしています。遠野だけではなく日本中で温度差は結構あったんじゃないかと思います。

上西: #いつかホップ畑で会いましょう は、立場が違っていても送りあえるワードだったんですよね。言葉の送り手も受け手も思いが共有できる。それを視覚的にもアプローチしたかったので、ポストカードという案を出したんです。

田村:ポストカードは秀逸でしたね。原価もすごく安いし。

上西:手元に残ることが大切だと思っていて。SNSだとどんどん流れて消えていくので、言葉とビジュアルを手元に残してもらいたいんです。実際に使わずにデスクや壁に貼ってもらうだけでも嬉しい。これは僕らからのメッセージカードでもあるわけですから。

BrewGoodの役割は前向きな空気づくり

遠野醸造

コミュニティブルワリーとしての役割を果たしている遠野醸造TAPROOM。新型コロナウイルス感染拡大対策のため、4月4日から5月6日まで休業していた

――ズモナビールはいい転換ができたと思いますが、遠野醸造はどんな状況だったんでしょうか。

田村:遠野醸造のチャレンジに対して、僕らが手助けしたのはラベルのデザインがメインですね。遠野醸造はそれぞれのメンバーが自らいろいろと動いていて、ビールのボトリングも世嬉の一酒造(いわて蔵ビール)にお願いしていました。かなり早いタイミングで仕掛けていたと思いますよ。

――販売開始から15分くらいで売り切れましたね。

田村:遠野醸造がボトリングできないので、他の醸造所とのコラボやボトリングを模索していたのですが、上閉伊酒造と一緒に遠野の事業者チームとして展開できる方が一緒にうまく販売していけるのではないかという話も出たんですよ。クラウドファンディングで関係性もより強化されたので、BrewGoodで企画書を作って上閉伊酒造に提案して、と。その話も通ったので、僕らがうまくつなぐことができたんじゃないかと思っています。

上閉伊酒造と遠野醸造のコラボビール(ONE AND ONLY TONO LAGER)
エールによく使われるホップであるHBC431とシトラに加え、遠野産のIBUKIを使用した上閉伊酒造と遠野醸造のコラボビール。トロピカルフルーツや柑橘を思わせる香りや苦みが広がり、すっきりとした味わいが感じられる。

――ファンや消費者との関係性をうまく構築していたなと思ったのが、5月3日に開催された「遠野醸造TAPROOM2周年!オンラインパーティー」。

田村:あの頃は、そんなに暗い感じではなかったかな。袴田は経営が大変で胃が痛かったかもしれないですけど。

上西:ある意味で息抜きになったんじゃないですかね。いろいろと手は打っていて、助成金の申請や準備も終わった頃だった。

遠野醸造

遠野醸造TAPROOMでは自社のビールを中心に提供

田村:遠野醸造に対して、BrewGoodとしてはそれほど動いていないかな。

上西:前向きな空気づくりですかね。

田村:そうそう、空気づくり。全体で盛り上がっているような流れがほしかったんですよ。そのときに思ったのは、前向きに動くということ。何もしないで不安に思うのではなく、前向きに仕掛けていったほうがいい。

上西:我々も前向きになんでもやっていましたね。

田村:BE社も、ビアツーリズムをオンラインでやるということで動いていましたね。4月18日に村上博士の企画をYouTubeでライブ配信しているんです。みんなが前を向いて動きはじめていました。そういう空気になっていったのは、本当によかった。

■BEER EXPERIENCE JAPAN「BE社YouTube始めました!第1回ゲストはホップ博士!」

普段からのつながりが有事で力を発揮する

田村淳一

――コロナ禍はいつ収束するかわからないですし、そういう前提で動かないといけないと思います。今後の動きはどう考えていますか?

田村:こういった状況では、通販のように個人に対してどれくらいできるかということが課題ですね。遠野醸造で外販を強化するとか、上閉伊酒造やBE社が卸だけでなく個人向け通販をやるとか。

ただ、これを各社単体でやっても成果は伸びないかもしれない。それをビールの里プロジェクトでやるとなったら、強くなるんです。クラウドファンディングでもあれだけ伸びたように、売るだけでなくファンを増やすことにつなげないといけない。

――ビールの里プロジェクトとして、うまくファンづくりができているように感じます。

田村:ズモナビールのように、自社のプロダクトで世の中に広く届けられるのは、ビールの里ブランドを強化していく上では大事だと思っているんです。なので、ズモナビールの存在はとても重要。今のところ、遠野醸造のビールは遠野に来ないと飲めないですからね。なので、通販を強化しながら、お客さまとコミュニケーションを取りながら、ブランドを広げていけるのがベスト。

――通販以外ではどうですか?

田村:ビアツーリズムですね。今はこういう状況なので開催できませんが、完全になくなってしまうかというと、そうではないと信じているんです。しっかり対策すれば、やれることはあるはずだと思っているんですね。例えば、野外レストランのDINING OUTのように、レストランの中でなくて外に出ていくことになったとき、ホップ畑でそれができたら最高だなと。

しっかり感染拡大対策していけば、もっとできるんじゃないかと思うんです。数年後に、そういった対策をしなくてもよくなったとき、ちゃんと遠野が選ばれる場所になっていたいと思っています。

上西:簡単に言うと、しばらくは種まきの時期だなと思います。後は、ビアツーリズムのようなリアルでの体験も貴重だし大切だけど、楽しみ方の提案もしていったほうがいいかなと。

上西尚宏

田村:いま、旅行はインバウンドもアウトバウンドもなくなっています。でも、もともと遠野はインバウンドの施策はまだまだ弱かったし、海外旅行ができなくなったけど国内旅行ならという人が、どこか面白い体験ができるところを探したときに、遠野に目を向けてもらえるんじゃないかなと思っていて。

上西:遠野に魅力を感じてくれる人たちは、日本にいっぱいいると思いますし、海外旅行によく行っていた人たちが国内を旅しようとなったら、一般的な観光地は目指さないと思うんですよね。

そういう意味では、遠野は普段なかなか行けない場所。ちゃんと受け入れる態勢が整っていたほうがいいだろうと思います。そのためには、これから整えなければいけないことがたくさんあるんです。

田村:今年、遠野の動画も撮ろうと思っていて。遠野ってこんな景色があるんだ、おもしろそうというのを世の中に出したい。今後、状況はどうなるかわからないですけど、ビールの里プロジェクトは臨機応変に対応できるチームでありたいと思うし、今回のコロナ禍の何が起こるかわからない中で、チーム力が上がった感じはあります。

■TIME LINE「ビールの語り手が集う町ホップで紡ぐ新たな遠野物語」

――ここまでお話を聞いていて、こういった予想できない事態になったときに、ビールの里プロジェクトの動きは参考となる事例だと思いますね。それぞれ会社や立場は違うのに、チームとして普段から連携していて、それがこういった事態のときにも力を発揮しているという

田村:僕は東日本大震災から4、5年経って東北・遠野に来たんですけど、そこで思ったのは、有事でないときのつながりが大事だということ。関係人口というか、普段からつながっているので、何かがあったら助けにいけるという関係。

それが、ビールの里プロジェクトでいうと、地域の仲間に加え、クラウドファンディングで応援してくれる人たちと、有事のときに力を発揮できたということ。事前に関係性を作るのは大事ですね。

――そういったつながりは有事でなくてもいいものですからね。

田村:普段からの関係性もあって、ピンチをチャンスに変えられたというか。

上西:僕らは恵まれてますよ。応援してくれる人が増えている気がしますから。地域の事業者から一緒に何かできないかと相談をいただくこともあり、ビールの里プロジェクトが進むにつれて、地域の皆さんに理解してもらえるようになってきていると感じます。

ビールの里プロジェクトで遠野市を前向きなムードに変えていきたい

遠野市

南部神社から望む遠野市街

――クラウドファンディングで応援してくれる人だけでなくて、ふるさと納税でビールの里プロジェクトを応援してくれる人もいますよね。

田村:ふるさと納税で応援していただけるのはありがたいですね。遠野市にふるさと納税していただくときに、昨年から使いみちとしてビールの里プロジェクトを指定できるようになったんですよ。

ただ、全体的にふるさと納税が増えてきているんですけど、ビールの里プロジェクト関連のズモナビールやパドロン、ホップシロップが返礼品として多く選ばれているわけではないんです。ビールの里プロジェクト関連で選べる返礼品が少ないということもあって。

上西:確かにまだまだ少ないね。

田村:なので、どぶろくとかお米を返礼品に指定して、使いみちがビールの里っていうのが増えてきたらしいんですよ。

――なるほど、それは面白いですね。

田村:それは、僕らがビールの里プロジェクトを進めていけば他の事業者が潤うということでもあるので、問題はないんです。ビールの里プロジェクトを頑張ってそれに関わる人だけが良くなっていくわけではなくて、お米やどぶろく、他の商品の売上が上がっているとも言える。

だから遠野市も市民の皆さんもビールの里プロジェクトを応援してください、いうムードに持っていけるんじゃないのかなと。

――遠野市全体がいいムードになっていくというのは、望ましい在り方ですね。ビールの里プロジェクトだけでなくて、遠野市の空気を変えていっている。

田村:この一年のふるさと納税の結果が来年1月に出るので、そこで風向きが変わって転換点になっていくんじゃないかな。

すべてはホップ農家があるからこそ

ホップ

――今後の動きについて、他に考えていることがあれば教えてください。

田村:ホップについても深い話をしはじめていて。どうすればホップ栽培を持続可能な状態にしていけるかを考える会合を定期的に開いています。

そこで話しているのは、僕らはただイベントをやって盛り上げているだけでなくて、その成果を地域のホップ栽培に還元していきたいということ

上西:ホップ農家の方とお話しするときは、「ホップがないと僕らはいませんから」って話すんですよ。ビールの里と言ってますけど、ホップがあってこそなんですよと。

田村:こういう議論は、遠野ホップ収穫祭をしっかりやっていたらできなかったと思います。今はこんな状況なので、逆にじっくり今後のことを話し合う時間にしようとしていますね。

ホップ加工処理センター

遠野市のホップ加工処理センター。遠野市で収穫されたホップはすべてここに集まり、加工処理される

――将来のためには必要な時間なんでしょうね。

上西:地域の課題は本当にいろいろありますね。そして、小さな街なので、良くも悪くも動いたらすぐ耳に入る。動き方はシビアに考えています。

田村:でも、ビールの里が動くと、ここまで波及効果があるということがわかりやすいとも思う。コロナ禍の対応で、兆しが見え始めてきたように思います。

――ホップ農家という大切な資産があるからこそ、ビールの里プロジェクトを進めていける。そのプロジェクトがあることで、地域内での連携がうまくできるようになって、コロナ禍でもファンを増やしたり、未来を考える時間にしたり、前に進んでいこうという空気を作れた。遠野での対応をまとめるとこんな感じでしょうか。

田村:そうですね。ホップ農家があるからこその、ビールの里プロジェクトなんです。対外的にもそういったメッセージを出していますし、本当にみんなそう思っているんですよ。今回のコロナ禍でピンチをチャンスに変えることができましたし、これからもプロジェクトを前に進めていきたいですね。

――今後は具体的にどんな動きを考えていますか?

田村:いろいろと考えていますが、まず8月14日にTONO HOP BOXをリリースする予定です。TONO HOP BOXは遠野のビールと地域の食材を詰め合わせたギフトボックスで、箱には遠野のホップ畑の風景をデザインするつもりです。

上西:作った食材や商品が売れずに困っている事業者は、遠野にもたくさんいます。ただ、それらの商品は、店頭販売には向いているんですが、単品で通販で販売するのは難しいんですね。それをビールのおつまみとして、「ビールの里」というテーマでセット販売しようと企画したのが、TONO HOP BOXです。

田村:遠野ホップ収穫祭も中止になってしまいましたし、楽しみにしていた人たちにもTONO HOP BOXで遠野を感じてもらいたいと思っています。第一弾には遠野ホップ収穫祭2020リユースエコカップも付ける予定です。このカップを持って、またいつか遠野を応援してくれる皆さんと遠野ホップ収穫祭で乾杯したいと思っています!

TONO HOP BOXの購入は遠野風の丘オンラインショップ 「遠野ふるさと屋」から。
ふるさと納税の返礼品として入手する場合はこちらから。
 
田村淳一・上西尚宏

取材・文:富江弘幸

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