ホップとは?種類と役割、特徴的なビールを紹介

ホップ ビール用語集

ほっぷ【ホップ】

  1. アサ科のつる性多年草で雌雄異株。和名はセイヨウカラハナソウ。
  2. 雌株の毬花(毬果)はビールの原料として、主に香りと苦味のもととなる。

ホップはビールの主原料のひとつ。ビール醸造には欠かせないものですが、ホップがどのような植物なのか、ビールの味わいにどう影響するのか、知らない人も意外と多い植物です。

植物としてのホップとビール醸造においてのホップの役割、ホップの分類方法、ホップの使い方が特徴的なビールについて紹介します。

植物としてのホップとは

ホップはアサ科のつる性多年草で、和名はセイヨウカラハナソウといいます。雄株と雌株は異なっており、ビールの原料として使われるのは、雌株の毬花(まりはな)、毬果(きゅうか)と呼ばれる部分です。

ホップの栽培方法

ホップの収穫

ホップは成長すると、8メートルほどの高さにまでつるが伸びます。ただし、つるだけでは上に伸びていくことができないため、栽培する場合はつるを上から吊り下げるような形になります。

ホップは春から夏にかけて急激に成長し、夏に毬花を収穫。その後は枯れてしまいますが、多年草のため根は残っていて、春になるとまた新しい芽が出て成長していきます。ひとつの株から収穫できる期間は30年近くになることも。

なお、毬花は雌株だけにできるものですが、雌株が受粉してしまうと毬花の香りなどが変わってしまうため、雄株は雌株の近くで栽培されることはありません。

ホップの成分

ホップ

ビールの原料として使われるのは、ホップの毬花と呼ばれる部分。毬花を割ってみるとわかりますが、この毬花にはルプリンとよばれる黄色い小さな粒がたくさんあり、このルプリンに香りや苦味の成分が含まれています。

このルプリンに含まれる成分が、ビールの味わいに大きな影響を与えるのです。

ホップの役割

では、ビール醸造にあたって、ホップにはどのような役割があるのかを紹介しましょう。ホップの役割としては以下の5つが挙げられます。

苦味づけ

ビール醸造でのホップの大きな役割のひとつは、ビールに苦味をつけることです。ルプリンにはアルファ酸という成分があり、熱を加えることでイソアルファ酸に変化して、ビールの苦味となります。

つまり、アルファ酸含有量の多ければ多いほど、苦味に変わる成分も多いということになります。

香りづけ

香りづけもホップの重要な役割のひとつです。ビールの香りはホップだけでなく酵母や麦芽由来のものもありますが、ホップの品種が変わることでその香りも変わり、ビールの香りにバリエーションをもたらします。

毬花にあるルプリンには、香り成分である精油が含まれており、ホップを複数品種組み合わせて使うことで、柑橘系の香りや花のような香り、青草のような香りなど、さまざまな香りを作り出すことができます。

泡持ちをよくする

ホップにはビールの泡持ちをよくする役割もあります。ビールの泡は、主に麦芽由来のタンパク質とホップ由来の苦味成分が影響しているといわれており、ホップを使用することで泡が持続しやすくなっているのです。

なお、泡がビールの液面に蓋をすることで、ビールの酸化を防ぎ、味わいを保つことにもつながっています。

殺菌作用

ホップには殺菌作用もあるということが知られています。

この殺菌作用がもたらしたビアスタイルとして、IPA(インディアペールエール)が挙げられるでしょう。IPAはホップを大量に使用することで殺菌作用を高めたもので、冷蔵技術が発達していない時代でも、ビールを腐敗させずにイギリスからインドまで船で運ぶことができました。

清澄作用

ホップの役割として清澄作用も挙げられます。ホップにはポリフェノールが含まれており、このポリフェノールが麦芽由来のタンパク質と結合することで沈殿し、澄んだビールにすることができます。

ホップとビールの歴史

現在では、ホップはビールに欠かせない原料のひとつですが、ビールと呼ばれるお酒が誕生した頃から使われていたわけではありません。ヨーロッパでは、8世紀頃からビールの原料のひとつとして使われてきたとも言われていますが、ホップがビールの原料として定着してきたのは、15世紀、16世紀頃と言われています。

1516年にバイエルン公ヴィルヘルム4世が、大麦・ホップ・水をビールの原料(後に酵母も加わる)とするビール純粋令を制定し、ホップの使い方が現在のビールに近い形になっていきました。

それまでヨーロッパでは、複数のハーブを調合したグルートと呼ばれるものをビールの原料として使用していました(グルートにはホップが加わることも)。ホップを含んだグルートがビール醸造に使われていく過程で、ホップのその特性が知られるようになり、徐々に使われていくようになっていったのです。

現在、世界中で造られているビールにはほぼ必ずホップが使われていますが、中にはホップが使われていないビールもあります。例えば、ベルギーのグルート醸造所(Brouwerij Gruut)のビールがそのひとつです。

グルート醸造所

グルート醸造所のビールは、日本にも輸入されていたことがありましたが、現在は輸入されていません。

ホップの分類

ホップには特徴の異なる多くの品種があります。品種については後述しますが、ホップの分類方法としては、品種のほかに、使い方による分類と保存方法による分類があります。それぞれ解説しましょう。

使い方による分類

ホップの使い方による分類とは、主に香りづけに使用するか、苦味づけに使用するかという違いです。アロマホップ、ファインアロマホップ、ビタリングホップの3つに分類されます。ただし、ビール醸造では必ずしも1種類のホップだけを使うわけではなく、異なった用途で使われる場合もあります。

アロマホップ

アロマホップとは、主にビールの香りづけに使われるホップです。華やかな香りやフルーティーな香りなど、銘柄によって特徴的な香りをもっており、カスケードネルソンソーヴィンなどの銘柄が知られています。

ファインアロマホップ

ファインアロマホップは、アロマホップの中でも比較的おだやかで上品な香りが特徴のホップです。銘柄としては、チェコのザーツというホップが知られています。

ビタリングホップ

ビタリングホップは、主にビールの苦味づけに使われるホップです。苦味のもととなるアルファ酸の含有量が多いホップで、代表的な銘柄にマグナムナゲットなどがあります。

保存方法による分類

ホップは保存方法によっても分類することができます。保存方法によって使い勝手が変わるだけでなく、フレーバーにも影響が出てきます。

フレッシュホップ

フレッシュホップとは、収穫したばかりのホップです。ホップは収穫した直後から水分がとんでいき、それとともに香り成分も揮発します。収穫直後のフレッシュホップを使用したビールは青々とした香りが感じられますが、そのためには収穫直後にフレッシュホップを醸造に使わなければいけません。

収穫直後のホップを瞬間冷凍して保存性を高めたものも、フレッシュホップという場合があります。

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ホールホップ

ホールホップとは、ホップの毬花の形のまま乾燥させたホップです。醸造に使用する際には手もみをして毬花を崩すことで、苦味と香りを麦汁につけやすくなります。リーフホップという場合もあります。

ペレット

ペレットとは、ホップを乾燥した後に圧縮し、小さい固まりにしたものです。保存しやすく、扱いやすいため、多くのブルワリーで使われています。

ルプリンパウダー

ルプリンパウダーとは、ホップに含まれるルプリンのみを抽出したものです。ルプリンのみを抽出することで、雑味のような香り成分などを除くことができ、ホールホップやペレットと比べてかさばらないのがメリットといえます。クライオホップといわれることもあります。

ホップの代表的な銘柄

ホップは銘柄によって苦味や香りの成分が異なります。ホップの代表的な銘柄を紹介しましょう。

ザーツ

ザーツはチェコの代表的なホップで、ファインアロマホップに分類されます。大手ビール会社のビールでもよく使われているホップです。クリーンな苦味とさわやかな香りが特徴。

カスケード

カスケードはアメリカ原産のホップで、グレープフルーツのような柑橘系を思わせる香りが特徴。1972年にリリースされた後、1980年頃からアンカーブルーイングのアンカーリバティエールやシエラネバダのペールエールに使用されて人気に。アメリカのクラフトビールを牽引してきたホップだといえます。

マグナム

マグナムは主にドイツで栽培されているビタリングホップです。香りづけにはあまり使用されることはありません。スパイシーな苦味が特徴で、苦味をつけるために数多くのビールに使用されています。

ネルソンソーヴィン

ネルソンソーヴィンは、ニュージーランドの代表的なホップです。ニュージーランド南島のネルソンで生まれたホップで、白ブドウを思わせる香りが特徴。ニュージーランドはワインに使われるブドウのソーヴィニヨン・ブランが知られていますが、ネルソンソーヴィンはソーヴィニヨン・ブランの香りに近いということもあり、その名前がつけられています。

ソラチエース

ソラチエースは、日本を代表する銘柄と言っても過言ではないホップです。サッポロビールが育種し、1984年に品種登録したもので、レモングラスやヒノキのような香りが特徴。当初は日本では受け入れられなかったものの、アメリカで人気になり、近年になって日本でも注目されるようになりました。

ホップ銘柄に特化したビール

最後にホップの銘柄に特化したビールを紹介します。そのホップの特徴がよくわかるビールです。

SORACHI1984

SORACHI1984は、サッポロビールが育種したソラチエースの特徴がよくわかるビールです。ソラチエースを100%使用(米国産、北海道上富良野産)しており、ヒノキやレモングラスの香りがしっかり感じられます。

とれたてホップ一番搾り生ビール

とれたてホップ一番搾り生ビールは、とれたばかりの岩手県遠野市産ホップIBUKIを急速凍結させて使用したビール。毎年11月頃から限定発売されます。青々としたみずみずしい香りが感じられるなど、とれたてのホップの特徴がよく現れています。

サッポロ生ビール黒ラベル 東北ホップ100%

サッポロ生ビール黒ラベル 東北ホップ100%は、その年に東北で収穫されたホップを100%使用。ホップの銘柄はサッポロビールが育種したホクトエースを使用しており、華やかな香りを引き出しています。

ホップに注目するとビールが楽しくなる

ホップは銘柄ごとに香りや苦味の特徴があり、それらを組み合わせることでビールの味わいも変わってきます。また、同じ銘柄であっても、フレッシュホップやペレットなどでもフレーバーが変わってくるため、その可能性は無限大ともいえるでしょう。

品種改良も行われており、これからも新しいフレーバーを表現できるホップが出てくるかもしれません。ホップに注目してビールを選んでみると、楽しみ方がより広がってくるはずです。

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投稿者プロフィール

ビールライター。法政大学社会学部卒業後、出版社でライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学、英字新聞社ジャパンタイムズ勤務を経てビールライターとして活動中。著書『教養としてのビール』(サイエンス・アイ新書)など。

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著者:富江 弘幸
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