ランビックは地域のビールの究極的なブランディング事例

Lambiek Fabriek Oude Geuze




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先日、ラジオ番組に出演したときの話。事前の打ち合わせで「東京のビールにはどんな特徴がありますか?」と質問されて、「うーん」と困ってしまいました。

東京で造っているからといって、東京ならではの特徴があるわけでもなく、都道府県単位で見ても、この都道府県だからという傾向はありません。でも、企画の意図として「東京ならではの何か」がほしいというのはよくわかります。

いろいろと考えた結果、味わいや製法の特徴ではなく、東京にはブルワリーが多いので多種多様なビールが飲めるという話をすることに。

ビール文化を創り上げるには小さい地域単位から

ビール醸造ということにおいては、ヨーロッパの国々と比べて日本は明らかに後発国で、まだまだ文化が醸成されていません。地域ごとのビール文化はこれから創り上げていく段階ではないでしょうか。

その地域の単位が大きくなればなるほど、文化の醸成に長い時間がかかります。例えば、ベルギー、ドイツ、イギリス、アメリカなどを見ると、それぞれの国のビール文化にはこういう傾向があるとなんとなく言うことはできるのですが、日本はまだできません。

日本の中の関東地方、東京都、23区と単位を狭めていっても、その地域のビール文化を語るのは難しいと思います。

でも、市区町村単位であれば、少しは可能性が出てくるのではないか。そんな気がしています。もちろん、市区町村単位であっても、文化を創り上げるにはそれなりの時間はかかるのですが。

ランビックは唯一無二感のあるブランディング

カンティヨン・グース

文化になる前段階とも考えているのですが、ブランディングの話もしましょう。

ベルギーにはランビックというビールがあります。

ランビックとは、ベルギーの首都ブリュッセルとその周辺地域でのみ造られるビールで、強い酸味が特徴。その酸味は野生酵母を使用することで生まれるのですが、野生酵母なんてものはブリュッセルでなくても、そのへんにいくらでもいます。

そのため、ブリュッセル以外でも野生酵母を使ったビールは造られていますが、それらはランビックとは言えません。ブリュッセルとその周辺に生息している野生酵母でないと、ランビックとしての味も出ないのです。

私はブリュワー経験もなく、化学的なことについての知識もないので、具体的にどこまで違うというのは詳しく説明できません。ただひとつ言えるのは、ランビックは長い年月をかけて培ってきたこの地域のブランドだということです。

地域のブランディングということでは、ビールに関してもたくさん事例があるのですが、ランビックは究極的な事例ではないでしょうか。ケルシュのような原産地呼称もいい例ですが、その地域にしか生息しない酵母というのは、唯一無二感があります。

野生酵母の生息範囲が限られているのは、ブランディングの上でもちょうどよかったかもしれません。ブリュッセルとその周辺地域以上の広い範囲でブランディングしようとするのは、なかなか難しいと思います。範囲を広げてしまうと、ブランディングではなく一般化になってしまうからです。

ブランディングから文化へ

日本でも、広い範囲ではなく市区町村くらいの単位でブランディングしていくのが、ひとつの目指すところなのではないでしょうか。こうやって意図してもしなくても、何らかのブランディングを続けた結果が文化になるのではないかとも思っています。

もちろん、ランビックのレベルにまでブランディングするには、時間がかかります。しかし、ランビック以外にも先人たちがいくつもブランディングの好例を示してくれているので、日本も、各地域も、それに倣いつつ、独自性を出しつつ、ブランディングを進めていくといいのではないでしょうか。

と、何やら偉そうに語ってしまいましたが、結局のところ今の私はただのビール好きにすぎず、ビールを飲みながらこうやって地域の事例を取り上げることしかできないのです。

今後、日本の各地域でのビール文化が醸成されるのを夢見つつ、今日はランビックを飲みたいと思います。

Lambiek Fabriek Oude Geuze

文・写真:富江弘幸

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