緊急事態宣言が解除された2021年10月1日の夜、街の雰囲気は明らかに違っていた

緊急事態宣言が解除された2021年10月1日の夜。

東京で仕事をしていた僕だが、今日は飲みに行くつもりはまったくなかった。ビアバーを含む飲食店を応援したい気持ちはあるものの、今日はおそらくどの店も混雑するだろう。混雑しているからといって新型コロナウイルス感染症になってしまうわけでもないし(可能性は高くなるが)、混雑していないところに行っても感染する可能性はある。

しかし、仮に感染してしまったときに、「ああ、10月1日に飲みに行っていたからだな」という目で見られるのは間違いない。

もちろん、いま店で飲むことはまったく否定はしないし、自分だって飲みにいける状況であれば飲みにいきたいと思っている。だが、自分を取り巻くさまざまな状況を考えると、今日飲みにいくのは難しかった。

しかも、緊急事態宣言は解除されたとはいえ、東京都ではアルコールの提供は20時まで。そもそも仕事を終えたのが20時過ぎだったので、飲みにいける状況だったとしても今日は飲めなかった。酒場で経済をまわすのは酒場に行ける人にまかせて、自分はおとなしく家でビールを飲もう。そう思って仕事場を出て、駅へ向かう。

歩きだすとすぐに普段の街の雰囲気と違うことに気づいた。

緊急事態宣言が解除されたことを意識していたからかもしれないが、活気が戻っている空気が漂ってきた。「普段の」街の雰囲気と違うと思ってしまうこと自体もどこかおかしいのだが、暗い夜であってもどことなく明るい雰囲気が感じられた。

時計を見ると、20時15分。

飲みにいくつもりはまったくなかったが、その明るい雰囲気につられて、

「ダメ元で、近くのビアバーに行ってみようか」

そんな気持ちになり、歩くペースを上げてビアバーへ向かう。

そのビアバーはガラス張りで、外からは店内の様子がよく見える。店のドアを開けると店員さんがこちらに気づいて向かってきた。

「すみません、今日はもう席がいっぱいで」

席が空いていたとしても、アルコールの提供は20時までだったので、どちらにしても今日は店でビールを飲むことは叶わなかったのだ。わかってはいたことだし、今日はそもそも店で飲むつもりはなかったのだが、少し気分が外飲みに傾いていたこともあり、店員さんの言葉に落胆しなかったといえば嘘になる。

残念だとは思ったが、店内で楽しそうにビールを飲む人たちが見られるのは悪くない。

しかし、外で酒が飲めるというだけでこんなにも街の雰囲気は変わるのか。緊急事態宣言は致し方ないとは思いつつ、改めて酒の力はすごいなとも思う。

今日は酒場で経済をまわすことはできなかったが、明日以降に酒場で経済をまわせるのを楽しみにしつつ帰宅。自宅で飲むビールも、今日は「普段の」ビールよりおいしさが倍増した気がした。

いや、確実においしかった。

投稿者プロフィール

ビールライター。1975年東京生まれ。法政大学社会学部社会学科卒業。卒業後は出版社・編集プロダクションでライター・編集者として雑誌・書籍の制作に携わる。その後、中国留学を経て、英字新聞社ジャパンタイムズに勤務。現在はウェブ、紙を問わずさまざまな媒体で記事を執筆している。日本ビアジャーナリスト協会のビアジャーナリストアカデミー講師も務める。著書に『教養としてのビール』(SBクリエイティブ、サイエンス・アイ新書)など。

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